今年は「第 9 地区」が最高だと思っていたら、「インセプション」があっさりと超えてくれた。少なくとも今夏最高傑作であるのは間違いあるまい。
監督は「ダークナイト」で一流監督の仲間入りをしたクリストファー・ノーラン。彼の映画は強烈なテーマ性を持ち、主人公は眉間にしわ寄せて過酷な課題に打ち勝つことが求められる。ジョークなどで笑わせるようなシーンは皆無だし、女性は出てくるものの色気のいの字も匂わせないことが多い。
今回の主演は、かつての二枚目路線もどこ吹く風、すっかり演技派俳優となったレオナルド・ディカプリオ。そしてアメリカ人の考える“現代の日本人”渡辺謙だ。
〜あらすじ〜
主人公のドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、人の脳内に存在する潜在意識に入り込むことでアイディアを“盗み取る”企業スパイ組織の一員。あるとき、サイトー(渡辺謙)という大企業のトップである日本人が現れ、コブと相棒のアーサーは彼から仕事を依頼される。依頼内容はライバル会社の解体と、それを社長の息子ロバートにさせるようアイディアを“植えつける(インセプション)”することだった。
予告編を見た感じ、近未来 SF のスパイ映画か何かと思っていたら全然違った。今回のテーマは“現実と虚構”。荘子の言う「胡蝶の夢」の世界だ。夢(正確には深層意識)には階層があり、深く潜るに従って世界は繊細で非現実的になっていく。そこでは物理法則を変えることも出来、どんな人物を登場させるかも自由自在。悪夢ならともかく、良い夢ならば現実に戻ってこなくなる人もいるわけだ。
ネタバレになるから詳しくは書かないが、ディカプリオ演じる主人公は“現実”に絶望している。仕事を通して“現実”に向き合うことで彼が救われるのか否か……というのが物語の主軸となる。
ここまでで見当がつくと思うが、物語は非常に複雑である。主人公たちは複数の世界を行き来するし、実在と虚構の人物が交錯する。できたら複数人で見に行った方がいい。様々な解釈ができる映画なので、見た後にいくらでも語り合えるはずだ。
↓では、以下はネタバレなので注意。
「どれが現実でどれが虚構なのか」 この系統の映画では一番問題になる点であるが、ラストシーンで誰もが思うのは、「ラストシーンのコマは止まったのか、回り続けたのか」であろう。
1. “コマが止まること”を知っているのは誰か
夢に侵入した場合は、トーテムが想定通りの動きをすることによって現実を認識できる。主人公にとってはそれが“コマがきちんと止まること”に当たる。
しかし、これを他人に知られてはいけない。なぜなら、“コマが止まること”を知っている他人の夢に入った場合、主人公が回したコマは、そこが夢の中であるにもかかわらず止まってしまう恐れがあるからだ。
映画ではヒロインが自分のトーテムを見せようとして主人公に止められるシーンがある。他人のトーテムを見ることはトラブルの元なのだ。
と言うわけで、ラストシーンのコマにはさほど意味がないと考える。そこで次。
2. 子供は本当に存在したのか?
これは一番気になった点なのだが、幼い子供のいる夫婦が、いくら夢の中とは言え 50 年もの間子供を放ったままにするだろうか。
更に、主人公と子供が電話で会話するシーンはあるものの、秘密の任務中にある主人公の元に子供の方から連絡してくるのはいかにも不自然だ。主人公が子供にまつわりのある物品を一つも所持していないのも気にかかる。子供は本当に存在したのか?
3. 全部夢?
突き詰めて考えると、キリがない。最初から最後まで夢だったかも知れないのだ。監督もそれを意識してか、映画の舞台設定をわざと曖昧にし、主人公の現実世界での行動を細切れにして思わせぶりな作りにしている *1 。
まんまと乗せられてる気もするが、これは二度三度と見ないと理解できないだろう。そう言う意味では、公開後ますます盛り上がる映画とも言え、今後も 2ch や各種ブログの感想を読んでみたい。
*1
: 京都で新幹線を降りたはずの主人公が、次のシーンでは東京にいたこと。また、ラストシーンで空港の次のカットがいきなり家だったこと。等々
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